<ムドラと呼吸法:チン・ムドラとジュニャーナ・ムドラ>

<ムドラと呼吸法:チン・ムドラとジュニャーナ・ムドラ>

今、起きていることを観察する —— “感じる”から“一段上の見る”へ

今日のクラスでは、前回に続いて手のムドラを使いながら、

呼吸と意識のつながりを探りました。

テーマは「チン・ムドラ」と「ジュニャーナ・ムドラ」。

見た目はほとんど同じ手の形。

けれども——その“意識が働く層”(コーシャ)が、まったく違います。

チン・ムドラでは、手のひらを下に向け、

呼吸を胸や腹部の中心に感じていきます。

安心感や静けさがじんわり広がり、

内側に身を委ねるような時間。

それは、「意識鞘(マノマヤ・コーシャ)」が中心に働いている状態です。

思考よりも感覚。分析よりも受容。

“ただ在ること”のやわらかさを思い出すような静けさです。

呼吸に意識を向けることも、

ヨガやセルフケアで自分の状態を観ることはこの層へのアプローチといえますね。

一方で、ジュニャーナ・ムドラは手のひらを上に向けます。

同じ指の形でも、意識がスッと上方、眉間のあたりへ。

吸う息は背骨を通って頭頂へ上がり、

吐く息で静かに胸の奥へ戻ってくるように。

(この感覚は、経絡でいうと督脈ではないかと私は実践の中で感じています。)


こちらは、「理智鞘(ヴィジュニャーナ・マヤ・コーシャ)」が働いています。

“自分を観察している自分”が、

少し距離を持って現れてくるような感覚。

そこでは、感じることと考えることの間に、

わずかな「間(ま)」が生まれます。

この「間」こそが、ヨガの“観察”の入口であり瞑想のはじまりです。

心が動くたびに一緒に揺れていた意識が、

少し離れた場所から出来事を見つめはじめる。

それが、クリパルヨガでいう「Watch(観る)」のプロセスです。

何かを止めようとせず、変えようともせず、

ただ今ここで起きていることを観察する。

その態度が、私たちを静かに整えていきます。

・   ・   ・

解剖学的に見ても、この二つのムドラの違いは明確です。

チン・ムドラ(手のひら下向き)では、

前腕の屈筋群(手掌側)が軽く働き、

神経的にも副交感神経が優位になります。


呼吸は胸郭の前面を広げ、横隔膜の動きを穏やかにし、

心臓・胸腔・腹腔のリズムが整っていきます。

経絡では、心経・心包経の流れが深まり、


“内側を感じ取る”力が高まり安定感が高まります。

一方でジュニャーナ・ムドラ(手のひら上向き)は、

伸筋群(手背側)がわずかに働き、

肩甲骨や後頭部へと呼吸の意識が広がります。

筋膜的には背面ライン(スーパーフィシャル・バックライン)が活性化し、

からだ全体の「背骨の軸」が明確に感じられます。

ここで目覚めるのは、集中と覚醒。

まさに“清澄な眼差し”を司るアジナ・チャクラ(第6チャクラ)の領域です。

“感じる”チン・ムドラから、“見つめる”ジュニャーナ・ムドラへ。

この小さな手の変化が、からだのラインも、呼吸の方向も、

そして心の位置も変えていきます。

ムドラは単なる「手の形」ではなく、
意識の方向性を示すコンパスのようにも感じます。


今、どの層で生き、どの層で見ているのか。

そのことを思い出すための、やさしい扉です。

最後にもう一度、静かに目を閉じて、

今日いちばん印象に残った呼吸の感覚を感じてみましょう。

思考が浮かんでも、感情が揺れてもかまいません。

それらすべてを、ただ「観る」。

今ここで、起きていることを——。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。