<春土用を迎えるにあたって>
春から夏へと向かう間の「土用」は、1年の中でも特に
心身のうごきが繊細になりやすい時期です。
この春土用(2025年は4月17日から5月4日まで)は、
芽吹きの勢いから、だんだんと少し落ち着きのある「土」の気へと移る過程。
冬から春へと整えてきた流れを、
そっと一度、整頓し直すようなタイミングです。
自然界では、風が強くなったり、急に気温が上がったり下がったり。
からだの内側でも、消化が不安定になったり、
だるさや重さを感じることがあるかもしれません。
そんな時は、「立ち止まって、今の自分を感じる」ことが、何よりの養生になります。
東洋医学では、土用の時期には「脾(ひ)」「胃(い)」の働きを
整えることが大切だとされます。
これは、食べたものを消化し、からだの隅々へと届ける土台の働きです。
つまり、“養う力”を高めておくことが、次の季節を元気に過ごす準備になります。
この「脾経」「胃経」という経絡は、
どちらもからだの前側、特に股関節周辺を通ります。
だからこそ、この時期におすすめなのが、太陽礼拝のような縦の流れを持つ動きです。
前屈や後屈、股関節の屈伸を丁寧に繰り返すことで、
前側の経絡の巡りが良くなり、消化器系のバランスも整いやすくなります。
ただ、春は特にまだ寒くなったり、外へ放出していくエネルギーも重要。
バランスよく、満遍なく全体を整えることを特に意識したい時期だと思います。
とはいっても、どこもかしこも、たくさんただ動けばよいというわけではありません。
むしろ、やさしく、自分のペースで行うのが、この季節にはぴったり。
たとえば、朝の短い時間に太陽礼拝を数回丁寧にしてみる。
吸う息で腕を空へ、吐く息で大地に近づく。
呼吸と動きが自然につながる時間は、
それだけで内側のバランスを整えてくれます。
また、仰向けのまま膝を立てて左右に倒したり、足
裏を合わせてひざを外に開く合せきの姿勢も、
股関節まわりをほぐす優しいケアになります。
●春土用に取り入れたいことを簡単にチェック!
・食事は軽めに、でも温かく 胃腸に負担をかけすぎないことがポイント。
おかゆや蒸し野菜、旬の山菜などもおすすめです。
・「甘味」と「黄色」を上手に取り入れる 脾胃を助ける色と味です。
かぼちゃやとうもろこし、さつまいもなど自然な甘みを楽しんでください。
・お腹を冷やさない 腹巻きや湯たんぽで、
へそ下あたりを温めてあげると、脾胃の力がゆるやかに整います。
・ゆっくり休む時間をつくる 「何もしない」「寝る」時間も立派なセルフケア。
休息することで内臓も回復します。
・ ・ ・
土用は「季節の端境期(はざかいき)」とも言われます。
だからこそ、無理をせず、
自分の中の「うつろい」に耳を澄ませる時間にしてみませんか?
からだの声を聞き、季節のゆらぎに寄り添って、
呼吸とともに動き、よく味わい、よく休む。
春というと、どうしても「動き出す」「始める」「芽吹く」といった
成長のイメージが強くなりますが、
こうして春土用を意識して過ごしてみると、
春には“お休み”が必要なのだなと、あらためて感じます。
花が咲き誇る季節のあとは、若葉が生い茂る。
この自然界の成長の大きな流れにしなやかに乗っていくためには、
自分のペースを保ち、自分らしくいることが、
いっそう大切になってくるのだと感じます。
そんな「内にある静けさ」に触れる時間こそが、これからやってくる夏に向けた準備になる。
春土用は、ただ立ち止まるのではなく、
自分自身と調和する“静かな時間”なのだと思います。
ヨガや養生の知恵は、いつでも私たちをそっと支えてくれます。
これからやってくる春土用の時間が、
みなさんにとって、次の季節へのやさしい橋渡しになりますように。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。