クリパルヨガの特徴③:
「名前の違いが映すヨガの捉え方」
私はクリパルヨガティーチャーになる前から
ヨガを伝える仕事に従事していました。
そのため、ある程度ヨガの知識のベースがある状態で「クリパルヨガ」を学び始めました。
すると、一般的な「ハタヨガ」とは異なる点がありました。
それは、クリパルヨガの特徴である「内観」「体験」を重視し、
あるがままを大切にすることだけではありませんでした。
ポーズの名前の違い(ポーズの呼び方の違い)もあったのです。
この「名前の違い」に、クリパルヨガの特徴がとても反映されていると私は感じています。
今回の『クリパルヨガの特徴③』では、
その「名前の違いが映すヨガの捉え方」についてご紹介します。
ヨガのポーズには、それぞれサンスクリット語の名前があります。
伝統的なハタヨガでは、
古典的な教典や師からの伝承に基づき、
ポーズの名称が一般的には統一されています。
これにより、世界中、日本中のヨガクラスで共通の呼び名が使われています。
一方、クリパルヨガでは、同じアーサナでも異なる名前が使われることがあります。
例えば、「ナーヴァアーサナ(舟のポーズ)」や
「アルダ・チャンドラアーサナ(半月のポーズ)」など、
一般的なヨガの呼び方とは少し違った呼ばれ方をします。
この名前の違いに、クリパルヨガならではの特徴が表れていると私は感じています。
●「ナーヴァアーサナ」と「ウルドヴァ・ナーヴァアーサナ」
伝統的なハタヨガでは、「ナーヴァアーサナ(Nāvāsana)」は
座位で両足を持ち上げてバランスをとる「舟のポーズ」を指します。
しかし、クリパルヨガでは、うつ伏せで両手両足を浮かせる
「飛行機のポーズ」に「ナーヴァアーサナ」の名前が使われます。
この違いは、ポーズの形そのものよりも、
ポーズが生み出す体験やエネルギーにフォーカスしている点に
由来しているのではないかと感じています。
うつ伏せのナーヴァアーサナでは、腹部が土台となり、
全身が「浮かぶ」感覚が生まれます。
この浮遊感が、まるで水に浮かぶ船のように感じられるため、
クリパルヨガではこの名前が用いられているのでしょう。
一般的なヨガでは、うつ伏せのこの形は、手や上半身の形が様々に変化し、
「飛行機のポーズ(エーカパダ・ラジャカポタアーサナ)」や
「バッタのポーズ(シャラバーサナ)」と呼ばれることが多いですから、
クリパルヨガの呼び方は独特に感じられます。(私も最初はそう感じました。)
しかし、ポーズを「固定された形」としてではなく、
「体験するもの」として捉えるクリパルヨガの視点を考えると、
「なるほど」と腑に落ちるのです。
どういうことだ?と思った方は、、、
「ウルドヴァ・ナーヴァアーサナ」とグーグル検索をしてみてください。
「犬」「弓」が検索にかかり、「船」は検索にかかりません。
一般的には「ナーヴァアーサナ」であり、
「ウルドヴァ(上向き)」がついた船のポーズは、
一般的なヨガのポーズ名としてはあまり見かけません。
クリパルヨガで独自に使われている呼び方です。
●「アルダ・チャンドラアーサナ」— 片足バランスだけではない?
一般的に「アルダ・チャンドラアーサナ(Ardha Chandrāsana)」は、
片足で立ち、もう一方の足を持ち上げて胸を横に開いたバランスのポーズを指します。
しかし、クリパルヨガでは、山のポーズ(ターダーサナ)から両腕を持ち上げ、
人差し指を立てたまま体側を伸ばすストレッチに
「アルダ・チャンドラアーサナ」の名前がつけています。
これもまた、形よりも「体験」に重点を置く
非常にクリパルヨガらしさが現れたネーミングと言えるでしょう。
他の流派では、この体側を伸ばすポーズを
「ターダーサナ・パールシュヴァ・バンダ(Tadasana Parsva Bandha)」
「パールシュヴァ・ウルドヴァ・ハスターサナ(Parsva Urdhva Hastasana)」
と説明することもあります。
動きをサンスクリット語に置き換えて呼ぶスタイルです。
この横の動きには伝統的なポーズ名が「無かったのだろう」。
という(私の)予測が立てられます。
一般的なアルダ・チャンドラアーサナは、
半月のように身体を真横に開きながら片足を上げてバランスをとるポーズです。
しかし、クリパルヨガでは「半月のように身体をしならせる感覚」に視点を置いています。
だからこそ、立位のサイドストレッチにこの名前が使われるのです。
・ ・ ・
このような名称の違いは、クリパルヨガの本質が現れているように感じます。
クリパルヨガでは、ポーズは単なる形ではなく、その瞬間の体験として味わうものです。
だからこそ、伝統的なヨガで定められたポーズ名にとらわれず、
「今、自分が何を感じているか?」を大切にするのです。
これは、クリパルヨガがアメリカで育まれたという背景とも関係があるかもしれません。
伝統を尊重しつつも、個々の体験を重視し、直感的に感じるままにポーズを実践する。
この自由なアプローチこそが、クリパルヨガの魅力のひとつでもあります。
ポーズの名前の違いに目を向けることで、クリパルヨガのユニークな視点が見えてきます。
アーサナを通じて「どのように感じるか」を探求することは、
ヨガの本質的な部分にも通じるのかもしれません。
・ ・ ・
「意図」しなければ、このようなポーズの名前の違いは生まれないはずです。
伝統的ヨガの流れを大切にしながらも、その中で一部だけポーズ名が変わる。
そこには、強い「思い」が込められているのだろうと感じています。
だからこそ、この名前の違いがとても面白い。
まるで登場人物が生きているような、
面白い本を読んでいる時のように私は感じています。
クリパルヨガのエッセンスも、生き生きとしていて心に響く感覚です。
その味わい深さと面白さが、クリパルヨガの魅力です。