下半身の筋力は、一度衰えてしまうと、
それを取り戻すのに想像以上の時間と根気が必要になることがあります。
それは単に筋肉を鍛え直すという話ではありません。
神経と筋肉のつながりを取り戻し、
忘れてしまったからだの記憶を思い出していくような時間でもあります。
私自身、そのプロセスを経験しました。
今から9年前、
ひどい腰痛をきっかけに、
一時的に歩くことが難しい状態になりました。
腰痛だけではなく、坐骨神経痛の症状も強く現れ、
右脚が自分のものではないような感覚になっていました。
力を入れようとしても、思うように応えてくれない。
動かない。
そして痛い。
足首を動かすこと。
地面を押して歩くこと。
ヨガのポーズをとることもできない。
それまで当たり前だったことが、
こんなにも難しいのかと愕然としました。
そして驚くほど早く、からだは変化していきました。
動かせない期間が短かったにもかかわらず、
右脚の筋肉は目に見えて細くなり、
特に足首を動かし地面を押し返す感覚が、少しずつ遠のいていきました。
このとき感じたのは「痛み」だけではありませんでした。
からだの一部が、自分の意志から少し離れていくような感覚。
つながりが薄れていくような静かな違和感です。
そこからの約1年は、
ほとんどセルフケア整体とともに過ごしました。
その時間は、筋肉を鍛えるための時間というよりも、
緩めて痛みを軽くする、感覚を取り戻していくための時間でした。
どこで地面を捉えているのか。
どこで支え、どこで力を受け取っているのか。
それらは一度失われると、
「鍛える」というより「思い出す」に近いプロセスになります。
ほんのわずかな重心の違いが、
歩き方そのものを変えてしまう。
その繊細さに、何度も向き合い続ける日々。
30代半ばと比較的まだ若かった私でも、
その回復には長い時間がかかりました。
だからこそ今は思うのです。
もしこれが高齢になってから起きていたら、どうだっただろう、と。
足が少し上がりにくくなる。
バランスが少し取りづらくなる。
地面を押す感覚が少しずつ薄れていく。
一つひとつは小さな変化です。
けれど、その小さな変化が積み重なることで、
転倒のリスクは大きく変わってきます。
私の祖母も、お風呂場での転倒をきっかけに大腿骨を骨折し、
その後の暮らしは大きく変化していきました。
当時の私は、その出来事を家族の出来事として見ていました。
けれど今は違います。
自分自身が歩くことの難しさと回復の時間を経験したからこそ、
立つこと、歩くこと、
その土台となる下半身の働きがどれほど大切なのかを、
以前よりも深く感じています。
だから、日々ヨガをすること。
そしてセルフケア整体を今から習慣にしていくこと。
それを伝え続けたいと思ったのです。
YOGATOを運営している理由の一つも、きっとここにあります。
そして、私自身、
左右の足首の動きが「同じように使えている」と実感できるまでに、
9年という歳月がかかりました。
44歳になった今も、右脚には弱さの感覚が残っています。
けれどそれは欠けたものというよりも、
「どこから回復してきたのか」を教えてくれる感覚でもあります。
からだは完全に元通りになるというよりも、
その過程ごと記憶していくものなのかもしれません。
・ ・ ・
そして回復の過程で気づいたことがあります。
それを教えてくれるのが、
YOGATOのセルフケア整体やヨガでいつも大切にしている
「深前線(ディープ・フロント・ライン)」という筋膜のつながりです。
もちろん、からだには背面を支えるラインや螺旋状につながるライン、
そして経絡も、さまざまなつながりがあります。
その中でも今回は、クラスでも触れている内腿や横隔膜との関係から、
「深前線」について少し触れてみたいと思います。
このラインは、足裏から内腿を通り、
骨盤底筋、そして呼吸の要である横隔膜へとつながっています。
これらが自然に働いているとき、
私たちは特別な力を使わなくても、
無理なく立ち、無理なく歩くことができます。
足裏で大地を感じ、
内腿が支え、
横隔膜がその支えを全身へ広げていく。
呼吸とともに、
そんな静かな連動が、からだの奥で起きています。
けれど、日々のストレスや呼吸の浅さによって横隔膜の動きが小さくなると、
この上下の連動は少しずつ働きにくくなったりもします。
すると、からだの奥にある支えの感覚も静かに眠り始めます。
立つことも歩くこともできる。
けれど、どこか頑張っている。
どこか力みやすい。
そんな状態につながることがあるわけです。
・ ・ ・
10年後、20年後。
そして、そのもっと先も。
自分の足で立ち、
自分の足で歩き、
行きたい場所へ向かうことができるように。
まずは今日触れた、内腿や脚の感覚を、
もしくは、ゆっくり歩き、大地を押した脚の感覚を
少しだけ丁寧に思い出してみてください。
私たちは忘れる生き物だから。
今日感じたことを。
今日つながった感覚を。
また明日も思い出す。
その積み重ねが、
きっと未来の自分につながっていくのだと思います。
