<三焦経という経絡 – 「見えない通路」がめぐりを整える>
季節のうつろいとともに、わたしたちのからだも、
こころも、少しずつ揺れ動きます。
YOGATOのクラスでは、そんな変化に寄り添うように、
その季節に関連の深い経絡(けいらく)を選び、
「今、この時期の自分の声に耳を澄ませる」ためのケアをお届けしています。
今回は、そのなかでも少しユニークな存在の経絡である(と思っている。)
『三焦経(さんしょうけい)』に目を向けてみたいと思います。
東洋医学には、全身に張り巡らされた「経絡」と呼ばれる
エネルギーの通り道あるとされています。
その流れに沿って「気」や「血」や「水」がめぐると考えられています。
その中のひとつ、『三焦経』は、手の薬指の先からはじまり、
腕の外側、肩の後ろを通って耳のまわりへと流れていく経絡です。
さらに、からだの深層では胸・おなか・骨盤にまたがる“内臓のスペース”にも関わり、
消化・吸収・排出、さらには水分代謝まで、
全身の連携に大きく関与するとされています。
しかし、「三焦」という臓器は、実際には形が存在しません。
心臓や肺のように目に見えるわけではなく、
それでも“内臓同士のつながり”や“気・水のめぐり”を支える機能として、
東洋医学ではとても重要な役割を担っているとされています。
三焦経の「三」という文字は、
上焦・中焦・下焦という三つのエリアを意味しています。
・上焦:胸のあたり(呼吸器や心臓)
・中焦:みぞおちからおへそ周辺(胃や脾などの消化系)
・下焦:下腹部(腸や腎、泌尿・生殖系)
この三つのエリアを橋渡しするように、気や水の流れを整える。
それが三焦経のはたらきです。
ちょうど、水道管のバルブや、空調のダクトのように、
「流れの通り道を整えて、全体のバランスを調える」ような役目。
気の滞り、湿気によるむくみ、
頭や顔のこもり感などにも関係していると言われています。
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三焦経が流れるルートを、現代の筋筋膜経線の視点から見ると、
肩甲挙筋・僧帽筋上部・胸鎖乳突筋・側頭筋といった、
「首・肩・側頭部の張り」に関係する筋肉群と重なる部分が見えてきます。
トリガーポイントの観点でも、これらの筋にできたコリやしこり(トリガーポイント)は、
耳鳴り・喉の詰まり・こめかみの頭痛・腕のだるさといった不調を引き起こしやすく、
とくに腕〜耳周囲の筋肉の緊張と関連が深いのが特徴です。
また、アナトミー・トレインでいうと、
アーム・ライン(特にラテラル・アーム・ライン)が、
三焦経の走行と驚くほど似た経路を描きます。
このラインは、肩甲骨の安定・腕の動き・頸部の張りと密接に関係し、
猫背・巻き肩・顎関節の不調などにも関与しています。
つまり、三焦経に沿ったやさしいケアは、
現代の解剖学的な観点から見ても、筋膜や神経の過敏さをやわらげる
セルフメンテナンスとして大いに意味があるのです。
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春から初夏にかけては、気圧の変化や湿気により、
からだの内外の流れが乱れやすい季節。
三焦経の通り道にそって、
ゆるめる・流す・ほどくという手当てが、思いのほか深く届いていきます。
・手首の外側にある 外関(がいかん)
・肘の外側にある 曲池(きょくち)
・前腕の緊張をゆるめる 手三里(てさんり)
これらのツボやラインを中心に、軽くなでるように触れたり、
腕を振る・肩を回す・呼吸と合わせて揺らす──
そんなシンプルな動きでも、三焦経はゆっくりと目覚めていきます。
三焦経という“実体のない経絡”に触れていると、
ヨガの世界にある「内なる気づき」と重なる感覚が生まれます。
目に見えないものを、信じる、感じる、、、そんな、
「ここ」と名指しできないけれど、たしかにある感覚。
逆に、「ふと楽になる感覚」も、また言葉にはしがたいものです。
経絡の地図や筋膜のラインは、どこまでも“仮の目印”。
でもその目印が、わたしたち自身の手で、
いま・ここにある感覚を優しく照らしてくれるのだと思います。
三焦経──それは、内と外、上下、気と水、
こころとからだを「つなぐ」経絡。
これからも、そんな見えない通路に耳をすませながら、
季節とともに、めぐる時間を大切にしていきたいですね。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。